五月病

  • [1] ハチ 2011/01/26 10:16

    就職難といわれているこのご時世にも関わらず、希望通りに就職ができて、将来結婚の約束をした彼女もいる。
    これは……
    順風満帆に思えていた一人の青年、拓也の身に降りかかった、恐ろしくも悲しい物語です。
    **********
    拓也がテレビ番組の制作会社に入社してから、1ヶ月以上が過ぎた。
    最初はがむしゃらに指示された仕事をこなすだけだったが、少し余裕もできてきて先輩たちの期待度も高まってきた。
    小さい頃から大学卒業まで、ずっと空手を習い続けてきたので、精神的にも体力的にも仕事に対しての自信はあった。
    「おい、拓也!ちょっと来い。」
    今日も一仕事終えて、さあ帰ろう!という時に、部長に呼ばれた。
    「この発注書の数字、間違ってないか?」
    壁に使うパネルが1000枚…
    「はい、なんかおかしいですね……」
    「おかしいですね、じゃないだろっ!すぐに調べろっ!」
    「あ、はい!!」
    拓也は美術部から聞き取りをした時のメモと、発注書の内容を見比べてみた。
    メモには自分の字で[パネル4枚]と書いてある。
    「あっ!」
    数字の4と漢字の千を読み間違えて、材料屋に注文してしまったのだ。
    電話でも美術部に確認したが、パネルの注文数は間違いなく4枚との事だった。
    「ばかやろー!1000枚って、何トンになると思ってるんだ!そんな物、あんな小さなスタジオに入りきるわけないだろ!」
    部長の声が事務所に響き渡る。
    「もういい!俺がなんとか注文を取り消してもらうから、お前はもう帰れ!」
    拓也はその日、入社以降初めて大きなミスをした。
    ほんの少し注意してれば、起こりえない間違いだった。
    今まで仕事に自信があっただけに、悔やんでも悔やみきれない。
    その日、一人アパートで浴びるように酒をあおって寝た。
    途中何度も夢にうなされて起きた。
    仕事とは全く関係のない、夢だった。
    はっきりは覚えていないが、崖から転落する夢を何度も見た。
    その日から、寝付きが悪くなった拓也は、頻繁に酒を飲むようになった。
    そして同じ夢を、何度も何度も繰り返して見るようにもなった。
    その悪夢が拓也の人生を徐々に変えてゆく……
    いや……
    その時……
    すでに拓也の運命は決まっていたのかもしれない……

    続く〜

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